EU AI法の透明性義務が開始|日本企業の対応

EU AI法の透明性義務と日本企業の対応を示すイメージ画像

EU AI法の透明性義務は2026年8月2日に適用開始し、違反時の上限は売上高3%です。

  • 要点1: AI対話の告知、生成物の機械可読マーク、ディープフェイク開示が対象
  • 要点2: 人が編集責任を負う公共関心テキストなどには例外がある
  • 要点3: EU向けに提供・利用される日本企業のAIサービスも対象になり得る

対象: AIサービス運営、広報、法務、DX推進の担当者

今日やること: EU接点のあるAIシステムと生成コンテンツを一覧化する

この記事の著者
株式会社Nexa 代表取締役川島 陸

一橋大学経済学部卒業後、フォーティエンスコンサルティング株式会社(旧 株式会社クニエ)にて法人向けAI導入支援等を経験。独立後、AI系メディア運営やDify/n8nの導入支援を経て、株式会社Nexaを創業。法人向けAI研修・AI導入支援・AI関連メディア運営を手掛ける。

EU AI法(EU AI Act)の透明性義務が、2026年8月2日に適用されました。

対象は生成画像だけではありません。AIチャットの告知、合成コンテンツの機械可読マーキング、ディープフェイクの開示、公共的関心を扱うAI生成テキストも含まれます。

日本企業でも、EU市場へAIサービスを提供する場合や、生成した出力がEUで使われる場合は対象になり得ます。まず必要なのは、ラベルを一律に付けることではなく、自社の立場とコンテンツの種類を整理することです。

EU AI法の透明性義務は2026年8月2日に適用開始

EU AI法は、AIの開発、提供、利用をリスクに応じて規律するEU規則です。2024年8月1日に発効し、義務ごとに段階的な適用が進められてきました。

今回の焦点は、第50条の透明性義務です。EU AI法本文の第113条により、第50条を含む大部分の規定が2026年8月2日から適用されています。

第50条の目的は、人がAIと接していることや、見聞きする内容がAIで生成・加工されたことを判断できる状態にすることです。ただし、提供者と利用主体では義務が異なります。

立場 EU AI法上の呼称 主な義務
AIシステムを開発・提供する事業者 provider AI対話の告知、合成出力の機械可読マーキング
AIシステムを業務で利用する企業・組織 deployer ディープフェイク、公共的関心テキスト等の開示

契約書に「利用者」と書かれていても、実態によっては提供者に該当する場合があります。自社ブランドで他社AIを提供する場合や、システムを実質的に変更する場合は、法務部門による役割判定が必要です。

第50条が定める4つの主要義務

「AI生成コンテンツにラベルが必要」という理解だけでは不十分です。第50条は、対象と義務主体を分けて規定しています。

1. AIと対話していることを知らせる

人と直接対話するAIシステムの提供者は、相手がAIと対話していることを知らされるように設計しなければなりません。

対象には、カスタマーサポートのチャットボット、AI音声応答、AIアバターによる接客などが含まれます。告知は、遅くとも最初の対話または接触時までに、明確かつ識別可能な方法で行います。

一方、状況からAIであることが合理的に明白な場合などには例外があります。判断に迷うサービスでは、初回画面や音声の冒頭で明示する運用が安全です。

2. 合成コンテンツに機械可読の印を付ける

音声、画像、動画、テキストを生成するAIシステムの提供者は、出力が人工的に生成・加工されたことを機械が読み取れる形式でマークし、検出可能にする必要があります。

条文は特定の技術を指定していません。実装候補には、来歴情報、メタデータ、電子透かし、コンテンツ認証情報があります。方式には、有効性、相互運用性、堅牢性、信頼性が求められます。

単にメタデータを付けるだけでは、再圧縮やスクリーンショットで消える場合があります。企業は配信後の変換まで含め、どの程度マークが残るかを検証する必要があります。

3. ディープフェイクであることを開示する

AIシステムの利用主体は、ディープフェイクに当たる画像、音声、動画を生成・加工した場合、その事実を開示しなければなりません。

EU AI法はディープフェイクを、実在する人物、物体、場所、団体、出来事に似せ、真正または真実だと誤認させる可能性があるAI生成・加工コンテンツと定義しています。

芸術、創作、風刺、架空作品では、表示や鑑賞を妨げない適切な方法で開示できる緩和があります。ただし、「創作物だから表示不要」という全面的な例外ではありません。

4. 公共的関心事項を扱うAIテキストを開示する

公共的関心事項について公衆に情報を提供する目的で、AIが生成・加工したテキストを公開する場合も開示が必要です。

ニュース、政策、選挙、災害、公衆衛生などが想定されます。ただし、AI生成テキストが人によるレビューまたは編集管理を受け、自然人または法人が公開について編集責任を負う場合は例外です。

この例外を使う企業は、「担当者が一度読んだ」で済ませるべきではありません。誰が、いつ、何を確認し、誰が公開責任を負ったかをCMSや承認ログに残す必要があります。

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すべてのAI生成物が一律表示対象ではない

第50条には複数の例外があります。AIが関わっただけで、すべての出力に同じ表示が必要になるわけではありません。

場面 原則 主な例外・留意点
AIチャット AIとの対話を告知 AIであることが合理的に明白な場合
合成コンテンツ生成 機械可読マークを付与 標準的な編集補助、意味を実質変更しない処理
ディープフェイク AI生成・加工を開示 芸術・風刺等は鑑賞を妨げない方法で開示
公共関心テキスト AI生成・加工を開示 人の編集管理と編集責任の両方がある場合

たとえば、誤字修正やノイズ除去のように意味内容を実質的に変えない処理は、機械可読マーキング義務の例外になり得ます。反対に、人物の発言を追加した動画や政策解説を自動生成・自動公開する仕組みは、対象となる可能性が高まります。

「AI利用あり/なし」の二択では管理できません。生成物の種類、変更の程度、公開目的、人の編集責任を記録する設計が必要です。

日本企業にも影響する3つの条件

EU域内に法人がなくても、EU AI法が無関係とは限りません。第2条は、一定の場合にEU域外の事業者も対象に含めています。

EU市場へAIサービスを提供する

日本からEU企業や消費者へAI SaaS、AI API、アプリを提供する場合は対象になり得ます。販売先、対応言語、利用規約、広告配信地域を確認してください。

EU拠点がAIを利用する

日本本社が契約したサービスでも、EUの子会社や支店が利用主体として使う場合があります。グローバル導入では、EU拠点の用途まで棚卸しする必要があります。

AIの出力がEUで使用される

提供者や利用主体が日本にいても、AIの出力がEUで使われる場合は適用対象になり得ます。EU向け広告、EU読者向けコンテンツ、EU企業へ納品するAI出力などが候補です。

単にEUからウェブページを閲覧できるだけで必ず対象になるかは、条文だけでは境界が明確ではありません。対象地域、実際の利用場所、契約関係を踏まえて個別に判断します。

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違反時は最大1,500万ユーロまたは売上高3%

第50条違反の制裁金上限は、第99条に基づき、1,500万ユーロまたは直前会計年度の全世界年間総売上高3%です。

企業では原則として高い方が上限になります。中小企業とスタートアップには、金額基準と売上高比率基準の低い方を上限とする配慮があります。

これは違反時に一律で科される金額ではありません。実際の判断では、違反の重大性と期間、影響人数、故意または過失、是正措置、当局への協力などが考慮されます。

GPAI(汎用目的AI)モデルの提供者に課される技術文書や著作権方針などの義務は、第50条とは別です。第50条は、人が接するAIシステムとAI生成物の透明性を主眼としています。

日本企業が今すぐ確認する5項目

ガイダンスの追加を待つだけでは、適用開始後の運用が空白になります。まず既存システムで実行できる5項目から着手してください。

1. EUとの接点と自社の立場を一覧化する

AIサービスごとに、提供地域、利用拠点、出力の使用場所を整理します。同時に、自社がproviderかdeployerかを判定します。

2. AI対話の告知を最初の接触までに表示する

AIチャット、音声応答、アバターでは、利用規約の奥だけに書かず、会話開始画面や音声冒頭で明示します。表示はアクセシビリティー要件にも対応させます。

3. 機械可読マーキングの保持を試験する

画像、音声、動画、テキストごとに採用方式を決めます。圧縮、切り抜き、再エンコード、SNS投稿後にも検出できるかを試験し、限界を記録します。

4. 編集責任と承認ログをCMSに残す

公共的関心事項を扱うテキストでは、AIが生成した範囲、レビュー担当者、確認日時、公開責任者を記録します。自動公開は停止条件と訂正手順も設けます。

5. 委託先とAPI事業者の責任分担を契約に書く

マーキングを誰が付け、誰が保持し、再加工で消えた場合に誰が対応するかを明確にします。広告代理店や制作会社にも開示ルールを適用してください。

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よくある質問

Q. AIで作った画像には必ず「AI生成」と表示する必要がありますか?

一律ではありません。AIシステム提供者には機械可読マーキング義務があり、利用主体にはディープフェイク等の開示義務があります。画像の内容、自社の立場、利用目的を分けて判断します。

Q. 人がレビューした記事なら表示は不要ですか?

公共的関心事項を伝えるAI生成・加工テキストでは、人によるレビューまたは編集管理に加え、自然人または法人が編集責任を負うことが例外の条件です。レビューと責任の記録を残してください。

Q. 日本語だけの国内サービスにも適用されますか?

国内利用に閉じている場合は通常、EUとの接点が小さくなります。ただし、EU市場への提供、EU拠点での利用、出力のEU内使用があれば対象になり得ます。

Q. どの透かし技術を使えば適合できますか?

EU AI法本文は特定方式を指定していません。有効性、相互運用性、堅牢性、信頼性と、技術的実現可能性を踏まえて選びます。採用理由と試験結果を文書化することが実務上の出発点です。

まとめ

EU AI法第50条の適用開始により、AIサービスの透明性は設計段階の要件になりました。日本企業は、AI利用を一括管理するのではなく、対話AI、合成出力、ディープフェイク、公共関心テキストに分けて対応する必要があります。

最初の作業は、EU接点、自社の立場、生成物の種類、人の編集責任を一覧にすることです。その結果を基に、UI表示、機械可読マーキング、承認ログ、契約上の責任分担を整備してください。

一次情報は、EU AI法本文欧州委員会のAI Act公式ページで確認できます。


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