中小企業DXの進め方|90日で始める7ステップ

中小企業 DX 進め方のイメージ画像

中小企業DXの進め方は、90日で1業務を7ステップで検証し、次の投資判断に必要な証拠を作る方法が現実的です。

  • 要点1:1,000社調査ではビジョンやロードマップが未策定の企業は66.0%です
  • 要点2:DX実施企業の78.3%は、成果が出ている、またはある程度出ていると回答しました
  • 要点3:KPIとGo/No-Goを先に決めると、限られた予算と人材を1業務へ集中できます

対象読者:中小企業の経営者、DX推進担当者、情報システム部門

今日やること:時間、ミス、顧客影響が大きい業務を3件書き出す

この記事の著者
株式会社Nexa 代表取締役川島 陸

一橋大学経済学部卒業後、フォーティエンスコンサルティング株式会社(旧 株式会社クニエ)にて法人向けAI導入支援等を経験。独立後、AI系メディア運営やDify/n8nの導入支援を経て、株式会社Nexaを創業。法人向けAI研修・AI導入支援・AI関連メディア運営を手掛ける。

中小企業DXの進め方で最初に必要なのは、高価なシステムの比較ではありません。経営課題に直結する1業務を選び、現状値と責任者を決めることです。

中小企業基盤整備機構の2025年調査では、ビジョンや経営戦略、ロードマップが未策定の企業は66.0%でした。計画がなければ、ツールを導入しても成果を測れず、次の投資を説明できません。

90日でDXそのものを完成させる必要はありません。90日で小規模な実証を行い、続けるか、直すか、止めるかを判断できる状態を作ります。この記事では、そのための7ステップとKPI、Go/No-Goの決め方を解説します。

中小企業のDXとは経営課題をデジタルで変える取り組み

DXは、紙を電子化することや新しいツールを入れることだけを指しません。デジタル技術とデータを使い、業務、顧客への価値、意思決定、組織の動かし方を変える経営上の取り組みです。

経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」は、DXを顧客視点の価値創出に向けたビジネスモデルや企業文化の変革として整理しています。

似た言葉は、変える範囲で分けると理解しやすくなります。

段階 変える対象 成果の見方
デジタイゼーション 情報の形式 紙の申請書を電子化する 入力時間、紙の量
デジタライゼーション 業務プロセス 受注から請求までを連携する 処理時間、転記ミス
DX 顧客価値や事業の仕組み 稼働データを新サービスに使う 売上、継続率、顧客体験

電子化はDXの土台です。ただし、電子化した件数だけを成果にすると、経営課題とのつながりが見えません。最初から「何の数値を変えるための電子化か」を決めます。

中小企業にDXが必要な理由

DXの必要性は、流行している技術を追うことでは説明できません。少ない人数で業務を安定させ、顧客への対応を速め、経験に閉じた判断をデータで補うために必要です。

中小企業基盤整備機構の調査では、DXへ期待する効果として「コスト削減、生産性の向上」が39.6%、「業務の自動化、効率化」が36.8%でした。データの一元化とデータに基づく意思決定も24.5%です。

ここで「効率化だけならDXではない」と切り捨てる必要はありません。経済産業省の手引きも、紙管理からの脱却や身近な業務の改善を、成功体験を作る入口として挙げています。小さな改善でデータを蓄積し、そのデータを顧客価値や事業判断へ使う順番が現実的です。

DX推進の制度や全体像は、DX推進とは?企業が成果を出す10の手順でも詳しく整理しています。

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2025年調査で見る中小企業DXの現在地

全国の中小企業経営者と経営幹部1,000社を対象にした「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」からは、関心と実行の間に差があることが分かります。

指標 結果 実務での読み方
DXを理解している 49.2% 半数は共通言語づくりから必要
DXに取り組む、または検討中 39.1% 実行段階へ移れていない企業が多い
AIを活用 28.4% 前年14.3%から14.1ポイント上昇
DXで一定の成果あり 78.3% すでに取り組む189社が回答母数
ロードマップ未策定 66.0% 実行順と判断日が決まっていない

78.3%という成果割合は、全1,000社の割合ではありません。「すでにDXに取り組んでいる」189社のうち、成果が出ている、またはある程度出ている企業の割合です。母数を分けて読む必要があります。

この数字は、DXを始めれば自動的に成功することを意味しません。一方で、対象を決めて動き始めた企業には、改善を観測できる機会があることを示します。止まりやすい地点は、技術導入より前です。

中小企業のDXが進まない4つの理由

中小企業のDXが進まない理由は、一つではありません。人材、予算、計画、安全性への懸念が重なり、最初の案件を決められない状態が生まれます。

同調査では、IT人材不足が28.3%、予算確保が難しいとの回答が26.0%、DX人材不足が25.6%でした。情報漏洩やサイバー攻撃への懸念がDX推進へ影響している企業も24.6%です。

障壁 起きやすい状態 90日計画での対処
人材不足 一人の担当者へ調査から運用まで集中する 経営判断、業務判断、技術支援を分ける
予算不足 導入費だけで投資を比べる 予算上限と総コストを先に決める
計画不足 部門ごとに別のツールを選ぶ 1業務と1つの到達点に絞る
安全性への懸念 審査が最後になり手戻りする 初日からデータと権限を確認する

人材が足りないから計画を作れず、計画がないから予算を説明できない。その循環を切る単位が「1業務、90日」です。

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90日ロードマップの全体像

90日ロードマップは、全社変革の完成予定表ではありません。最初の1業務について、基準値、検証結果、総コスト、継続判断をそろえる予定表です。

中小企業DXの進め方を0〜90日の3段階で示すロードマップ図1: 90日で課題設定、小規模検証、継続判断まで進めます。

期間 主な目的 成果物 経営判断
0〜30日 課題と現状を確定する 業務フロー、基準値、責任者、予算上限 検証へ進めるか
31〜60日 小規模に試す 検証記録、例外一覧、利用者の所見 改善して再試行するか
61〜90日 再検証して判定する KPI比較、総コスト、運用手順、判定資料 拡大、条件付き継続、停止

対象は原則として1業務、1部門、1責任者に絞ります。複数部門へまたがる場合でも、最初の検証範囲は一つの受け渡しまでに限定します。たとえば受注から請求までを一度に変えず、受注情報を請求担当へ渡す工程だけを対象にします。

90日が短すぎる業務もあります。季節変動が大きい業務や発生頻度が低い業務では、検証期間を延ばします。期間を守ることより、比較に足る件数を集めることを優先してください。

開始前に経営者が決める5項目

最初の会議では、製品名より先に五つの項目を決めます。デジタルガバナンス・コード3.0も、DX経営による企業価値向上に向けて、経営ビジョンや戦略を経営者が示す考え方を整理しています。

  1. 経営課題:売上機会、処理能力、品質、顧客対応、事業継続の何を変えるか
  2. 対象業務:どこからどこまでを90日で検証するか
  3. 責任者:予算、例外、継続または停止を誰が決めるか
  4. 予算上限:外部費用と社内工数をどこまで許容するか
  5. 停止条件:どの状態なら本番化しないか

「生成AIを導入する」は経営課題ではありません。生成AIは文章や画像などを作る技術であり、課題を解く手段の一つです。「見積回答が遅く失注が生じるため、回答までの時間を短くする」のように、変えたい状態を先に置きます。

経営者が技術仕様を決める必要はありません。しかし、何を成果とし、どのリスクを許容しないかは、技術担当者へ委ねるわけにはいきません。

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中小企業DXの進め方7ステップ

中小企業DXの進め方は、課題設定から横展開までを7ステップに分けると管理しやすくなります。各ステップの完了条件を成果物で確認すると、会議だけが増える状態を避けられます。

1. 経営課題と90日後の到達点を決める

経営課題は一つに絞ります。候補は、処理時間、ミス、売上機会、顧客からの苦情、在庫、事業継続などです。複数を同時に追うと、施策がどの成果へ効いたのか判定しにくくなります。

到達点は、観察できる状態で書きます。「業務を効率化する」では判定できません。「対象業務の処理時間を毎回記録し、現行手順と新手順を同じ件数で比較できる」のように、90日後に存在する証拠を定義します。

2. 現状業務とデータを棚卸しする

業務の開始から完了までを、入力、処理、出力、例外、承認の順に書き出します。各工程で使うデータ、保存場所、閲覧者、転記の有無も記録します。

IPAのDX推進指標は、経営層、事業部門、DX部門、IT部門が現状と課題の認識をそろえ、行動へつなげる自己診断ツールです。現在と3年後の目標をレベル0〜5の6段階で評価します。

自己診断の点数だけを上げることが目的ではありません。同じ設問に対する役員と現場の評価が違えば、その差が議論の入口になります。

3. 対象業務を1つに絞る

候補業務は、効果、実現性、リスクの3軸で比べます。最初の案件では、効果が最大の業務より、結果を測りやすく、誤りを人が見つけられ、元の手順へ戻せる業務が適する場合があります。

評価軸 確認すること 初回に向く状態
効果 頻度、時間、ミス、顧客影響 毎週以上発生し、現状値が取れる
実現性 手順、データ、担当者 入出力と正解条件を説明できる
リスク 誤りの影響、復旧方法 人が確認でき、訂正しやすい

AIを使った候補業務の選び方は、AIで業務改善する方法でも具体例を紹介しています。

4. KPIと基準値を設定する

KPIは、目標への進み具合を測る指標です。ログイン回数のような活動だけでなく、業務がどう変わり、経営課題へどう影響したかをつなげます。

導入前の基準値がなければ、改善幅は測れません。過去データがない場合は、最初の1〜2週間を計測期間にします。件数、処理時間、修正時間、差し戻し、エラーを同じ条件で記録してください。

各KPIには、定義、単位、データ源、測定頻度、責任者を付けます。「時間を短縮」ではなく、「受付から承認完了までの営業時間内の経過時間を、業務システムの記録から週次で集計する」と定義します。

5. 小規模なPoCを実施する

PoC(概念実証)は、技術が動くかだけでなく、自社の業務で期待する効果と安全性を得られるか確かめる検証です。見栄えのよいデモを作る工程ではありません。

検証データには、通常の案件だけでなく、情報不足、入力ミス、形式崩れ、例外処理を含めます。人が出力を直す時間、問い合わせる時間、元の手順へ戻した件数も測ります。

比較単位はツールの処理速度ではなく、業務の開始から完了までです。自動処理が速くても、確認と修正が増えれば、業務全体の時間は短くなりません。

6. Go/No-Goを判定する

判定は、導入したい気持ちが強くなる前に基準を決めます。選択肢は「Go」と「No-Go」の二つだけでなく、「条件付きGo」を設けます。

  • Go:品質、安全性、業務効果、総コスト、運用可能性が基準を満たす
  • 条件付きGo:改善箇所と再判定日を決め、範囲を限定して続ける
  • No-Go:重大なリスクが残る、効果を測れない、運用負担が許容範囲を超える

No-Goは失敗ではありません。本番化後の損失を小さな検証費用で避けた判断です。検証で得た業務フローと基準値は、別の手段を選ぶときにも残ります。

7. 標準化して次の業務へ広げる

Goと判断しても、すぐ全社へ広げません。操作手順、入力条件、承認、権限、例外処理、障害時の戻し方を文書にし、担当者以外が同じ結果を出せるか確認します。

横展開は、技術が似ている部門より、データの受け渡しがつながる隣接工程から始めます。受注入力を改善したなら、次は請求や在庫との連携を検討します。成果と運用負担を再計測しながら、範囲を一段ずつ広げます。

0〜30日で課題と基準値を固める

最初の30日は、製品を比較する期間ではありません。現状の業務と数値を確定し、検証へ進む条件を整える期間です。

実施内容 成果物
1週目 経営課題と候補業務を決める 企画書の初版、責任者
2週目 業務フローとデータを棚卸しする 現状業務図、データ一覧
3週目 基準値を測り、候補を比較する KPI基準値、候補評価表
4週目 範囲、予算、リスク、停止条件を合意する PoC計画、判定基準

30日目のゲートでは、対象業務の開始点と終了点、基準値、業務責任者、利用できるデータ、予算上限が決まっているか確認します。一つでも未確定なら、製品契約を急がず、測定と整理を続けます。

31〜60日で小規模に検証する

31日目以降は、利用者と案件数を限定して新しい手順を試します。現行手順も残し、同じ種類の案件で比較できるようにします。

検証では、成功した件数だけを集めません。修正内容、差し戻し、処理できなかった例外、利用者が迷った操作を記録します。障害時に元へ戻せるかも、実際に手順を確かめます。

60日目のゲートでは、データが比較に足るか、重大な安全上の問題がないか、改善箇所が特定できるかを判断します。判断材料が不足している場合は、対象を広げるのではなく、条件をそろえて再試行します。

61〜90日で継続、改善、停止を判断する

61〜75日は、前半で見つかった問題を直して再検証します。変更前後で条件をそろえ、改善が再現するか確認します。利用者が変わると結果が崩れるなら、手順や教育が不足しています。

76〜90日は、経営会議へ出す判定資料を作ります。資料は長い報告書である必要はありません。次の項目を1枚にまとめれば、投資判断に必要な論点をそろえられます。

  • 経営課題と対象業務
  • 導入前後のKPI
  • 品質と安全性の結果
  • 外部費用と社内工数を含む総コスト
  • 現場で残った負担と例外
  • Go、条件付きGo、No-Goの提案
  • 次の90日で変える範囲

90日目に成果が出なかった場合も、原因を分けます。手段が不適切だったのか、データが不足したのか、対象業務が広すぎたのかで、次の判断は変わります。

DXのKPIは3層で設計する

KPIは、活動、業務成果、経営成果の3層でつなぎます。活動だけ増えても、業務時間や顧客価値が変わらなければ、投資を続ける根拠にはなりません。

中小企業DXのKPIを活動、業務成果、経営成果の3層で示す図図2: 活動から経営成果までを3層でつなぎ、導入前の基準値と比べます。

指標の役割
活動KPI 新手順が使われているか 対象件数、利用者数、実施率
業務成果KPI 業務が改善したか 処理時間、修正時間、ミス率、差し戻し
経営成果KPI 経営課題へ影響したか 対応可能件数、失注、粗利益、顧客継続率

三つすべてを大量に置く必要はありません。最初は各層から一つずつ選びます。たとえば、見積業務なら「新手順の利用件数」「見積完成までの時間」「期限内の提出率」をつなげます。

KPIシートには、指標名、定義、基準値、目標または許容範囲、データ源、測定頻度、責任者を記載します。売上のように90日で変化を判断しにくい指標は、先行する業務成果と併用します。

Go/No-Goの判定基準

判定基準は、PoC開始前に合意します。実施後に基準を決めると、都合のよい数字だけを選びやすくなるためです。

中小企業DXのGo No-Goを判断する品質、安全性、効果、費用、運用の5軸図3: 品質、安全性、業務効果、総コスト、運用可能性の5軸で本番化を判断します。

判定軸 確認事項 No-Goまたは要改善の例
品質 正確性、修正、差し戻し 重大な誤りを人が発見できない
安全性 データ、権限、ログ、復旧 権限外の情報へアクセスできる
業務効果 時間、件数、ミス 確認作業を含めると悪化する
総コスト 導入、運用、社内工数 継続費用を予算内に収められない
運用可能性 担当者、手順、例外対応 特定の一人が不在だと止まる

条件付きGoでは、改善する項目、担当者、期限、再判定日を明記します。「様子を見る」では判断を先送りするだけです。範囲を狭める、承認を追加する、データを整えるなど、条件を行動へ変えます。

限られた予算で進める方法

予算が限られる企業ほど、購入価格だけで比べない方が安全です。安い製品でも、転記、確認、データ修正、問い合わせが増えれば、総コストは上がります。

手段は、既存システムの未使用機能、既製のSaaS、ノーコードまたはローコード、個別開発の順で検討します。SaaSは、インターネット経由で利用するソフトウェアです。初期設備を抑えやすい一方、利用人数、保存容量、連携、解約時のデータ移行を確認する必要があります。

予算枠は次の項目に分けます。

  • ライセンスと利用量に応じた費用
  • 初期設定、データ整備、システム連携
  • 操作説明、手順書、問い合わせ対応
  • 社内担当者が検証と確認に使う時間
  • 保守、更新、バックアップ、障害対応
  • 縮小や停止時のデータ移行と契約終了

追加開発へ進む前に、現行業務の標準化で解ける問題か確認します。部門ごとに入力項目や承認方法が違うままシステム化すると、違いを維持するための費用が増えます。

専任人材がいない場合の推進体制

専任のDX部門がなくても、役割を三つに分ければ始められます。小規模な企業では一人が兼務しても構いませんが、誰がどの判断をするかは明記します。

役割 主な責任 兼務時の注意
経営責任者 目的、予算、許容リスク、継続判断 技術担当へ最終判断を丸投げしない
業務責任者 現状業務、例外、KPI、定着 現場の利用時間を確保する
技術支援 製品、データ、権限、障害対応 特定製品の導入を目的にしない

外部支援は、社内にない技術や比較経験を補うために使います。経営課題と停止条件まで外部へ委ねると、契約終了後に判断できる人が残りません。AI導入支援の選び方AI顧問の役割も、支援範囲を整理する際の参考になります。


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セキュリティを初日から組み込む

セキュリティは、本番移行の直前に確認する項目ではありません。中小企業基盤整備機構の調査では、情報漏洩やサイバー攻撃への懸念がDX推進に影響している企業は24.6%でした。

PoCを始める前に、次の項目を確認します。

  1. 扱うデータを公開、社内、機密などに分類する
  2. 利用者と管理者の権限を必要最小限にする
  3. 操作と変更の記録を確認できるようにする
  4. バックアップと復旧の手順を試す
  5. 事故や誤送信時の連絡先と停止権限を決める
  6. 外部サービスの保存場所、再利用条件、削除方法を確認する

対策を増やせば安全になるとは限りません。誰も確認しないログや、更新されない規程は機能しません。重大な誤りを止める承認、アクセス権、復旧手順をPoCの合否に含めます。

公式事例から学ぶ3つの進め方

一般公開された経済産業省の2025年版手引きPDFには、中堅、中小企業の具体的な取り組みと成果が掲載されています。

経営方針と現場参加を結ぶ株式会社後藤組

株式会社後藤組は、DX戦略と成果指標を定め、専任チームが現場社員による業務アプリ作成を支えました。一人当たり残業時間は2021年の123時間から2024年には108.7時間へ減少しています。

この事例では、経営者の方針だけでなく、現場の改善提案、社内の認定制度、成果指標がつながっています。ツールの種類より、役割と評価の仕組みが参考になります。

身近な紙業務から始めた有限会社道環

有限会社道環は、紙で行っていた報告業務をスマートデバイスへ移し、入力、集計、転記を見直しました。手引きでは、紙の報告業務に使っていた時間を1日3時間削減したと報告されています。

全社の業務を一度に変えず、毎日発生して効果を測れる業務から始めた点が、90日計画と共通します。時間を生み出した後に、その時間をどの業務へ振り向けるかまで決めると、経営成果へつながります。

時間と品質を測った株式会社モリエン

株式会社モリエンは、社員向けと顧客向けのWebアプリを開発し、利用者の声を反映して改善しました。伝票起票は1枚5分から1分へ短縮し、電話で月2〜3件発生していた色番号の誤発注は0件になったと報告されています。

処理時間だけでなく、誤発注という品質指標も測った点に注目できます。効率化が速さだけを追って品質を下げていないか、二つのKPIで確認しています。

DXの費用は総コストで考える

DXに必要な費用は、対象業務、利用人数、データ量、連携、求める安全性で変わります。そのため、根拠なく一律の相場を置くより、費用の内訳をそろえて比較します。

費用区分 含める項目 見落としやすい点
導入 契約、設定、機器、データ移行 初期費用の対象範囲
連携 API、形式変換、テスト 仕様変更後の再対応
運用 月額利用料、保守、問い合わせ 人数や利用量による増加
社内工数 棚卸し、検証、確認、教育 管理職と現場の時間
リスク対応 権限、ログ、バックアップ、監査 復旧テストの費用
終了 解約、データ出力、旧手順への復帰 データを取り出せる形式

比較期間もそろえます。初期費用だけが安い案と、運用費を含めて安い案は一致しない場合があります。90日PoCの費用と、本番化後の一定期間の総コストを分けて見積もります。

投資判断では、費用削減だけに限定しません。処理能力、品質、売上機会、リスク低減のうち、経営課題に合う効果をKPIで比べます。

補助金は計画の後に選ぶ

補助金は自己負担を抑える手段ですが、DXの目的を決めるものではありません。採択されやすそうな製品から課題を逆算すると、現場に合わない導入が残るおそれがあります。

経済産業省の2025年版手引きは、ITツール導入、生産プロセス改善、省力化などに関する政策を一覧で示しています。ただし、制度名、対象経費、申請条件、公募期間は変わります。申請時点の公式サイトと公募要領を確認してください。

確認項目は、対象事業者、対象経費、補助率や上限だけではありません。申請前の契約や着手の扱い、実績報告、支払い時期、自己資金、処分制限も確認します。

計画を先に作れば、補助対象外でも実施する施策と、採択された場合だけ広げる施策を分けられます。補助金がなくても必要な最小範囲を決めておくと、計画全体が公募結果に左右されません。

中小企業DXで避けたい7つの失敗

失敗は、技術が動かないときだけ起きるものではありません。動いたのに使われない、効果を説明できない、運用費が続かない状態も含みます。

失敗 起きる理由 防止策
1. ツールから選ぶ 解く課題と評価軸がない 経営課題と対象業務を先に決める
2. 対象を広げすぎる 例外と関係者が急増する 1業務、1部門、1責任者に絞る
3. 基準値を取らない 導入前後を比較できない 最初の1〜2週間で現状を測る
4. 責任者がいない 例外や追加費用を判断できない 経営責任者と業務責任者を置く
5. 通常例だけで試す 本番で例外処理が止まる 入力ミスや情報不足も検証する
6. 初期費用だけで比べる 運用と社内工数が膨らむ 総コストで比較する
7. 成功後すぐ全社展開する 手順と支援が追い付かない 標準化して隣接工程へ広げる

「PoCで良い結果が出たから全社展開する」という判断にも注意が必要です。少人数の熟練者だけが使った結果なら、他の担当者でも再現できるかを確かめてから広げます。

今日作れるDX企画書の1枚テンプレート

最初の企画書は、次の10項目を1枚に収めます。説明資料を厚くするより、未決定の項目を見えるようにする方が会議は進みます。

1. 経営課題:2. 対象業務の開始点と終了点:3. 現状の件数、時間、ミス、費用:4. 90日後にそろえる証拠:5. 活動、業務成果、経営成果のKPI:6. 経営責任者と業務責任者:7. 予算上限と社内工数:8. 使用するデータと権限:9. 判定日と判定者:10. Go、条件付きGo、No-Goの条件:

今日の時点で数値が分からなければ、空欄を推測で埋めません。「誰が、いつまでに、どの記録から測るか」を記載します。空欄が残る場所こそ、最初の30日で確認すべき仕事です。

よくある質問

Q. 中小企業のDXは何から始めるべきですか?

時間、ミス、顧客への影響が大きい業務を3件挙げ、現状値を取れる1件へ絞ります。製品比較より先に、対象範囲、責任者、90日後の到達点、停止条件を決めてください。

Q. DXにはどのくらいの費用がかかりますか?

一律の金額では示せません。対象業務、利用人数、データ移行、連携、安全性、運用支援で変わるためです。ライセンスだけでなく、社内の検証時間、データ整備、教育、保守、解約時の移行まで総コストで見積もります。

Q. 社内にIT人材がいなくても進められますか?

始められます。経営責任者、業務責任者、技術支援の三役を決め、不足する技術だけを外部で補います。外部へ依頼する場合も、経営課題、予算、許容しないリスク、継続判断は社内に残します。

Q. DXの効果はどのKPIで測ればよいですか?

活動、業務成果、経営成果の3層から選びます。見積業務なら、新手順の利用件数、完成までの時間、期限内提出率が候補です。各指標に定義、基準値、データ源、測定頻度、責任者を付けます。

Q. 補助金を前提に計画してもよいですか?

補助金の利用を見込むことはできますが、採択を前提に実施範囲を固定しない方が安全です。まず経営課題と最小の実施範囲を決め、次に利用できる制度を探します。条件は申請時点の公式公募要領で確認してください。

まとめ

中小企業DXの進め方は、90日で全社を変える計画ではありません。1業務に範囲を絞り、基準値を測り、小規模に試し、次の投資を判断するための証拠を作る計画です。

7ステップは、経営課題の設定、業務とデータの棚卸し、対象の選定、KPI設定、PoC、Go/No-Go、標準化です。予算と人材が限られるほど、対象を増やすより、完了条件と停止条件を明確にしてください。

最初の行動は、時間、ミス、顧客影響が大きい業務を3件書き出すことです。その中から現状値を測れる1件を選び、責任者と90日目の判定日を置けば、計画は動き始めます。


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